8人が本棚に入れています
本棚に追加
あの朝。
地下鉄の改札に瞳を奪われた朝。
私は押された肩に歩みを進めた。
いつも通りの階段を上るために……
私が9時にしていた事は、潮風を胸いっぱい吸い込む事でも無く。
広い海を眺める事でも無かった。
近代的な窓に囲まれたオフィスから、青い空を眺めながら得意先の電話に出る事だった。
ドラマのように、地下鉄に飛び乗る事も出来なかった。
会社に仮病の電話もできずにいた。
私に来たのは心に蓋をして、オフィスの扉を開くこと。
あれから何年経ったのだろう。
オフィスの窓から見える空を眺めながら、地下鉄の旅を続ける。
そんな朝を、何度迎えただろうか……
現実に引き戻された空しさも、何度感じたことだろう。
「さぁ、仕事仕事」
自分に言い聞かせ、意識をパソコンへと向ける。
これも……、何時もの事。
最初のコメントを投稿しよう!