スケープゴート・エスケープ

4/16
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
 もう嫌だ。もう無理だ。やってられない。  雨がやんで晴れてきたら、私はボンヤリしながら、足を引きずって庭を移動した。  こんな所、出てってやる。屋敷の外は、広くて大きな世界なんだ。どうせ死ぬなら、そこで死にたい。  セキュリティとか、厳しいかもしれない。でも、塀の隙間から外へ、私はすんなりと抜け出すことができた。  しばらく頑張って進んでたけど、だんだん疲れてきた。頭の中がもっとボンヤリしていく。  体の力が抜けて、私はそのまま地面に倒れた。  気が付いたとき目に入ったのは、広くて大きな空。鼻で感じるのは、乾いた風のにおい。  体はダルいけど、体は痛くなくて、頭が何だか暖かなものに包まれている気がした。頭を動かしてみると、白い毛が見える。 「気が付きましたか」  声が耳に入る。声のした方を見ると、私を見つめるヤギの顔。 「え!?ヤギ!?」  驚いて、私は跳び起きた。 「もう元気そうですね」  優しそうな声が軽く響く。 「え、今、誰?」  誰がしゃべったの?私は耳を澄ませる。風の音がゴーっと響く。辺りを見回しても、ヤギ以外しゃべりそうなものは何もない。 「誰もなにも、ここには僕しかいません」  優しそうな声がまた響く。私はヤギの目を見つめる。 「え、あなたが…?」 「ええ、僕が」 「あなた、話せるの?私の言葉もわかるの?」  彼は確かにこう答えた。 「ええ。僕は神に選ばれた者ですから」  か、神…?  私は何も返せず、あっけにとられた。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!