スケープゴート・エスケープ

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 わけがわからないまま、私はヤギの話を聞いた。  ヤギは、もともと人の多い集落で飼われていて、でもある日「神に選ばれ」て、この荒野をひとりで歩くことになったそうだ。 「神に選ばれるってどういうこと?」 「僕は『神のキセキ』という不思議な力を使えるんです。君の傷を治したときのように」  荒野を歩いていたときに、倒れていた私を見つけたヤギは私を背負って移動して、「神のキセキ」で傷を治した。言われてみると確かに、体は全然痛くないし、体を見ても傷が残ってない。私は、目の前のヤギがタダモノではないとは感じたけど… 「神に選ばれたのに、ひとりにされたの?なんかおかしくない?」  私がそう言うと、ヤギはひゅっと息を吸った。私は続ける。 「だって、そうなったら普通、周りから大切にされると思う」 「なるほど。君は意外と頭がいいんですね」  ヤギはうなずいた。私は、いきなりホメられてムズムズした。 「でもね。僕は、神に選ばれたからこそ、こうして荒野を歩き、進んでいるんです」 「どういうこと?」 「それが、神から与えられた使命だから」  よくわからない。でも、ヤギの顔は、穏やかだけど輝いて見えた。 「ふーん…でも、そんなあなたが、どうして私なんかを助けたの?」  私が聞くと、ヤギはきょとんとして私の顔を見る。私もきょとんとする。 「え?私、変なこと言った?」  そう言うと、ヤギは私を見つめたまま、考えるように言った。 「君が傷ついていたから、助けたいと思った。ただそれだけ」  ヤギの鼻がフンと鳴る。 「…それだけ?」 「ええ。それだけ」  ヤギのその顔と言葉に、私はまたムズムズした。  傷が治っても、体はまだダルい。私はその夜もヤギと過ごして、そのまま眠った。  とっても嫌な夢を見た。たぶん、屋敷にまだいるころの夢。仲間もいたけれど、私にとってはもう、いたくない場所だった。
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