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しかし少女は友太を無視して唇を引き締め、前に置いたリュックから何かを取り出す。
『マイクロホン?』
それは野鳥の鳴き声を録音するような大きめなマイクロホンだった。それとPCMレコーダーを手にし、ジャックを接続してヘッドホンを耳にあて、すっと立ち上がって車両の最後尾へ移動し、車窓に流れる暗いトンネルを眺め、猫たちもゾロゾロとそこへ集まって行く。
『なんなんだよ?』
友太は改札で見た時以上に不思議な光景に目が離せなくなった。少女は最後尾の車両の壁を背にして床に座り込み、マイクロホンをセッティングし、何か録音しようとしている。
『電車音マニア……』
そして区間の中頃で電車が突然揺れ、それに合わせるように猫が一斉に鳴き始め、数秒間続いて少女は真剣な表情でヘッドホンで聴きながらマイクロホンを向けて微笑んだ。すると猫たちは最初の頃のようにじゃれ合ったり寝転んだりして、一仕事終えたようにリラックスした。
『まるで、何かの儀式みたいだ』
少女もマイクロホンとレコーダーをリュックに仕舞い座席に戻ったが、ヘッドホンを首に掛けて友太にボソッと声をかけた。
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