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「見えるのか?猫たち」
少女の唇はツンとして可愛かった。
「えっ?」
友太もイヤホンを外して聞き返す。
『猫たち……、とだけは聞き取れたが』
少女が唇を突き出して友太を見ているので、ドキドキして次の言葉が出てこない。
「まっ、いいや。見えるヤツがいたって不思議じゃないから」
少女は一人で納得してそう呟き、席に深々と座ってヘッドホンをして友太を無視し、電車がホームに着くと猫たちと急いで降りて行った。
それを呆然と見ていた友太はイヤホンを外したまま、最初の言葉を考えた。
『見えるのか?猫……』
停車した電車が次の駅に向かって走り始め、少女と猫たちが反対行きのホームへ行ったのが見える。そこにも数人の乗客がいたが、猫に視線を向ける者はいなかった。
それで友太はやっと気付いた。少女が話しかけた顔が頭の中に蘇り、あの猫は普通の人には見えないんだと気付く。
『一匹も……』
友太はハッとして席を立って振り返ったが、車窓のガラスに映っているのは自分の顔と暗闇だけだった。
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