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少女と猫の群れは電車に乗って三ツ沢上町駅へ引き返し、空いた車内の席を猫が占領し、寝そべったり転がったりするのを眺めて少女もリラックスした。
『こうしてると悲しいことなんて吹き飛びそうだ』
そして駅に着くと何事もなかったように一緒にホームに降り、入った時と同じく少女は赤いキャップと白いマスクをしてヘッドホンを首に掛け、猫たちは順番を守って一列になって改札へ歩いて行く。
しかし最後尾の三毛猫が通り過ぎようとした時、駅員が少女の後ろ姿を見て呼び止めた。
「ちょっと、君」
少女は表情を曇らせて立ち止まり、マスクを外して強ばった笑顔で振り向き、バレてがっかりしたが平静を装う。
「野島さんのお孫さんだよね?」
「ええ……」
少女に合わせて猫たちも足を止めて振り返っているが、駅員には見えてないので咎められる事なくお喋りは続く。
「猫好きのおばあちゃんが懐かしいよ。毎朝この辺を散歩して、駅に来て話しかけられた」
「そうですか?私も猫を見ると思い出します」
「夜も遅いから、気をつけて帰るんだぞ」
「はい」と頷き、キャップを取って頭を下げて猫たちと歩き出すと、大通りからターミナルに入って来たタクシーがタイヤを軋らせて止まり、堂安友太が慌てて後部席から降りた。
少女と猫たちはチラッとそれを見たが、列の並びも歩くスピードも変える事なく進み、マスクをポケットに入れた少女は駅員にはバレるし、猫は見られるし、『最悪だ……』と呟く。
友太は気になって、次の駅で電車を降りてタクシーで追いかけて来たのである。見えない猫と何を録音していたのか?興味本位ではあるが、好奇心で心臓がドキドキして、どうしても会って聞いてみたかった。
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