ドッペルゲンガーに逢える場所

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地下鉄に乗るたびに、僕は「もう一人の自分」と出会う。 車両にちょこんと据えられた窓の中に。 否が応にも。  電車は1時間に1本で、ましてや「地下鉄」という概念が存在しない田舎から東京の大学への進学に合わせて上京したばかりの2年前の僕にとって、地下鉄の車両に当たり前のように鎮座している「窓」の存在は不思議なものだった。  なぜ。 地下深く、暗黒の中を突き進むはずの地下鉄に窓がついているのだろう、と。 もしかすると、本来何も存在しないはずの、宇宙の始まりのような闇の中には、乗客を楽しませるための絵画や写真が飾ってあるのかもしれない。 あるいは愉快な小人のパレードをやっているのかもしれない。  上京したての頃の僕は、本当にそんなことを考えていた。  だから、初めて地下鉄に乗ったあのとき。  駅のホームに続く長い階段を降りるとき。 やたらと大きな風と音を撒き散らしながらホームに電車が飛び込んできたとき。 発車ベルが少し反響して鳴り響いたとき。  僕は異様にワクワクしていたのだ。  電車に乗った僕は、ドアの窓に張り付くようにして外の風景を見つめた。 ホームに立っている数人の人に怪訝な目で見られたが、気にする余裕はなかった。 やがて、鉄の塊が大きなうめき声を上げながら身体を動かし始める。 ゆっくりと、窓の外の、白い照明の光に満ちた世界が流れていく。  さあ、いよいよだ。  ぐわっと、まるで怪物に飲み込まれるかのような轟音と共に、僕の乗る車両が、地上とつながっている唯一の空間から唐突に切り放された。 色彩に満ちた世界との別れ、未知の暗黒世界への出発。
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