二、

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どれくらい時間が経ったのか。 ……ピチョン 「……ん?」 水音が耳に響いた。 ふと見ると、足元に小さい水溜まりができている。 雨漏りしたのか。 そんな気配はなかったのだけれど。 「……て、えっ?」 その水溜まりに、バタバタと暴れる物体を見つけ、ヒッと身をすくませた。 よく見ると、1匹の蛾だった。 太い胴に、枯れ木のような羽。 もがくたび、その羽から鮮やかな紅がのぞいて見えた。 この蛾は知っている。 ……確か、ベニシタバ。 ぼんやり浮かんだそれは、兄に教えてもらった名前。 「………」 正直にいうと、あまり虫は好きではない。 幼少時は虫とり遊びに興じたりもしたようだが、今では小さな羽虫が家に入るのも嫌だ。 それでも、気づけば私は立て掛けていた傘を手にして、蛾をすくいあげていた。 どうしてそうしたかはわからない。 ただ、もがく姿を放っておけなかった。 「ほら……。 でも、外はまだ雨だよ。しばらく雨宿りしなくちゃね」 そう言うと、返事するかのように、ベニシタバが傘の先から飛び立つ………… ーーー瞬間、 すべての音が 消えた。
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