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 ブロンテの部屋には朝までカギがかかり、誰も入れなかった。窓は大人の出入りができない。  朝になり、カギをあけて、ショーンが入ったときには、すでにブロンテは死んでいた。  部屋のなかに隠れている人間はいなかった——  そんなバカなことがあるかと、メーファンは罵った。  だが、ショーンがブロンテの部屋にカギをかけるところは、ワレスが自身の目で見ている。この事実は動かしがたい。  試しに、ワレスは聞いてみた。 「マスターキーであけたと言ったな。合鍵はあるのか?」  ショーンは従順に答える。 「各部屋に一つずつ合鍵がございまして。お客さまに求められたときにだけ、お渡ししております。ブロンテさまには渡しておりました。おそらく、まだ荷物のなかにまじっていると思うのですが」  そのカギは、すでにメーファンたちが確認ずみだ。  ブロンテの部屋のチェストの引き出しに、ロウソクなどの備品とともに入れられていた。 「合鍵はカギのかかった部屋のなか。ほかの誰にも手出しできない。では、マスターキーの置き場所は?」 「私どもの寝室と厨房をつなぐ、ろうかの壁にかけてあります。すぐそばが下男の寝室です。夜中に誰かがとりにきたかどうかは、下男に聞けばわかります」  メーファンの命令で、兵士が走っていった。  結果、下男は昨夜、ショーンが『おやすみ』を言って去ったのち、誰一人、そのカギにさわらなかったと断言した。  メーファンたちは、そのまま、宿の使用人の話を聞きに行った。が、たいした収穫はなかったようだ。  まもなく、ワレスたちは、宿の敷地から出ない条件で解放された。  ワレスは夜、寝られなかったぶん、昼寝でもしようと思った。しかし、ジェイムズが追いかけてきて、あれこれ言いだす。 「どう思う? ワレサ……じゃなく、ワレス。カギのかかった部屋のなかで、どうして人が殺されたんだろう?」 「なんで、おれに聞くんだ」 「だって、君は昔から、こういう不思議な事件を解決するのが得意だったじゃないか」 「そうだったか?」 「そうだとも。私が祖母の形見の指輪をなくしたときも、見つけてくれたのは君だった」  そんな事件があったろうか。ワレスの記憶にはない。きっと印象の薄い出来事だったのだ。 「そんな昔のことは忘れた。おれは眠いんだが。ジェイムズ」 「そう言わないで知恵を貸してくれよ。友達だろう?」 「友達なんかじゃない。あんたが勝手についてきたんだ」 「そうかなあ。役人の友達がいるのは、君だって便利だろ?」  ワレスは言葉につまった。  ワレスがジェイムズの立場を利用して、ブロンテとケンカしたり、メーファンの信用を得たのはたしかだ。 「……クソっ。あんた、けっこう高度なイヤミを言ってくれるじゃないか」 「イヤミだなんて、私は君を心から愛してるよ。友として」  おぼっちゃまにやりこめられて、ワレスは唇をかんだ。 「いいだろう。力になってやるさ。おれだって、早くこんな事件から逃れて出発したいんだ」 「じゃあ、教えてくれ。ブロンテを殺したのは誰だと思う?」 「いきなり、わかるわけないだろう。逆に聞くが、宿の人間に怪しいヤツはいなかったのか? マスターキーを誰かが持ちだしたとか?」 「ないね。下男の話は信用できる」 「下男自身がキーを使って、ブロンテを殺した可能性は?」 「下男は八十前の老人なんだよ。元気なお年寄りではあるが、ブロンテの巨体をつるしあげるのはムリだ」 「下男が泊まり客の誰かに買収されていたって可能性は?」 「それは、すぐには言明できない。が、そういう人物ではなさそうだね。なんというか、謹直」  ジェイムズの見解だから、かならずしも正しいとは言えないが、ここはとりあえず信用しておく。下男は無関係と断定した。 「じゃあ、カギのかかった密室で人が殺された件について、これらの方法が考えられる」 「へえ。方法があるのか。さすがだな」 「単純明快だ。殺したのは、ショーン。酔いざましを持っていったとき、ブロンテが生きていたと言ったのはショーンだ。その証言が真実か否か、誰も証明できない。ショーンが部屋を出ていったときには、すでにブロンテは死んでいた。死体は、あの状態だった——という考えかた。これなら、翌日までカギがかかっていても関係ない」 「うん」 「だが、それもありえないな」 「なんだ。ありえないのか」 「ショーンが犯人なら、なんで、わざわざカギの話をするんだ。だまってれば、宿のなかにいる全員に、犯行の機会があったと目される。自分が疑われはしない」 「まあ、そうだね」 「それに、おれが本を借りに出ていったときには、宿のなかは静まりかえっていた。どんなに注意しても、あれほど静かに、あの犯行はおこなえないよ。したがって、ショーンの証言は事実。彼が部屋から出ていったときには、ブロンテはまだ生きていた」 「なんだ」
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