4

3/4
前へ
/26ページ
次へ
 ワレスは二度寝をあきらめ、ジェイムズをさがしに歩きだした。  日が傾きだしていた。  そろそろ、成果はあっただろうか?  ジェイムズはブロンテの部屋の前にいた。  メーファンの部下と話している。 「やあ、ワレ……ス。目が覚めたんだね。変な時間に寝てると、今夜も眠れなくなるぞ」 「わかってる。新しい発見があったか?」 「新発見というほどのことは。ヒューゴ・ラスについては、メーファン隊長が調べに行ったよ。今夜はこの部屋にカギをかけて、合鍵とマスターキーを、私が預かる。宿には見張りの兵士が数人、残るそうだ」 「客が逃げださないようにな。室内にはまだ死体が?」 「死体は治安部隊の駐屯所に運ばれた。そこで塩漬けにされて、州都のブロンテの住所へ送られる。あの遺体がほんとにブロンテ本人か、遺族の確認をとらなければならないからね」  そのあと、急に思いだしたように、ジェイムズは続ける。 「死体をおろしてみて、初めてわかった。ブロンテは頭部に鈍器でなぐられた跡がある。こめかみあたりの骨がくだけてたんだ。血はほとんど出てなかったが」 「死んでから、なぐられたのか?」 「おそらく」  心臓が停止したあとに受けた傷からは、出血がきわめて少ないと、学校で習った。  ワレスは、じっさいにそういう死体を見たことはない。が、ジェイムズは仕事がら、経験がある口ぶりだ。  ワレスは考えた。 「いよいよ、おかしな事件だな。ナイフで刺して、鈍器でなぐって、そのうえ首をしめ、つりさげたわけか。いったい何がしたかったんだ」  死体をはずかしめたかったという理由だけだろうか?  あの死体の状況を見れば、それ以外には考えられないが。それにしても念が入っている。 「ところで、ジェイムズ。死体を運びだしたなら、もう荷物もないんだろうな?」 「なぜ?」 「メーファン隊長が手紙の話をしてたろう? ブロンテがヒューゴの手紙を持ってたんじゃないかと思ってね」  うれしげに、ジェイムズは笑った。 「君がそう言うだろうと思って、荷物はまだ残してあるよ。事件に興味がわいてきたんだろう?」 「ちがう。おれは早く出立したいだけだ」 「だから、協力してくれるんだろ? 君なら、私たちが見すごしたことにも気づくかもしれない」  ジェイムズは見張りの兵士に声をかけた。 「ちょっと、なかを見てもいいだろうか?」  兵士は快く、ジェイムズの前に道をあけた。  ワレスはジェイムズとともに、ブロンテの泊まっていた部屋に入った。  なかのようすは大勢の兵士が歩きまわって、すっかり様変わりしていた。じゅうたんは泥だらけだし、家具も動かされている。死体があった場所には、ロープがたれさがっていた。  ジェイムズが革製の旅行鞄をベッドの上に置いた。 「ブロンテの荷物はこれだけだ」  思っていたより少ない。  ユイラは温暖な国なので、着替えもかさばらない。が、それにしても、州都からここまで、片道でも二十日近くかかる。  ブロンテみたいな見栄っぱりなら、もっと豪華な衣装や道具を持ち歩いているのかと思った。  鞄のなかには下着や寝間着、財布、ヒゲそりなどの必需品。ほんとに最低限しか入ってない。  服はまだクローゼットにかけられていた。昨夜、着ていたものをふくめて三着だけ。 「あの手の権威主義者にしては、異様なほどに簡素だ。だが品物はいい。鞄もすり傷だらけでボロボロだな。旅なれてるのか?」  しかし、いかになれてるとは言え、金持ちが従者を一人もつれずに旅をするだろうか?  いくら、世界一の大国、文化の華といわれるユイラだって、盗賊がいないわけではない。そういう危険をぬきにしても、単純に不便だ。日ごろ贅沢になれた男が、一人旅に甘んじるのは、よほどの理由があるはずだ。 「秘密にしたかったのかな。この旅の目的」  つぶやくワレスの前に、にっこり笑って、ジェイムズが一通の封筒をさしだす。 「ちゃんと、あずかっておいたよ。ヒューゴ・ラスからの手紙。これは鞄の内張のポケットに隠してあった」  ジェイムズは旅行鞄のその部分を示した。ぬいめにそって切りこみが入り、隠しポケットになっている。 「用心深いな」
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

75人が本棚に入れています
本棚に追加