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1章
太鼓の桴が激しく鼓面を打ち、笛の音が空を斬る。
祭り囃子が不夜の星祭を埋め尽くす夜に月はない。地平線の片隅に沈まぬ太陽が燻る白い世界では、現在、三日間に渡る星祭が行われている。
右も左も射的台という奇妙な光景は圧巻であった。白夜に花火が上がる。青色の枝下花火だ。続く連発花火は赤い大輪の花を咲かせる。
「マキナ。仕事したくないから俺と付き合ってくれ」
花火の音に重なるようにぼんやりと気だるい口調で言ったのは朱色の粘土で作られた水筒だった。射的台の景品である。従って、水筒のいう「仕事」とは射的台の景品であることだった。都合の良い現実逃避である。
「いいよ。うん、嬉しい。私も智洋とそうなれたらいいなって思っていたんだ」
水筒の傍らの黄色の粘土で作られたランチボックスが、躊躇いもなく答えた。可愛らしい娘の声である。彼女はマキナというようだ。気だるい告白に満更でもない様子である。
「いいのかよ。これからどうなるか分からねえんだぞ」
「自分から言っておいてなにそれ。それに仕事したくてもできないじゃない」
ランチボックスが声を上げて笑った。
彼らの置かれている状況は異常であった。彼らは、射的の景品として射的台の上に居るのだ。ふたつのやり取りを聞いていたのだろう。一番上、左から三番目の黄色のアヒルがふたつを皮肉る。ひょこにみえるがアヒルだという。
「熱いねえ。二人とも。幸せなんか来ないことぐらい知っているだろうに」
「そんなことないと思うけれどな。なにか方法があると思う」
アヒルに対してランチボックスは言った。射的の景品となってなお前向きな発言であった。
「俺らの命は三日間。星祭が終わるまでだ。それまでこんな茶番を繰り返すのか? その告白は今朝も聞いたぞ」
射的台の二段目に座る膝を抱えた土偶が言えば、ランチボックスは答えた。
「私はマキナ。水筒は智洋というの。これも何かの縁だもの仲良くしょう」
「だから! この状態でどうしろと聞いてるんだ。大事な魂を絶無にとられて俺たちはみんな置物だ。転生すらできなかった。どうしてくれるんだ」
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