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膝を抱えた緑色の土偶は泣いているのか怒っているのかその表情は固定されている。悲壮感に嘆くばかりで言葉だけが宙に飛んでいる。絶無に感情や欲求を吸われ、残されたモノだけが強調されている。
「あたいたちは絶無に誘導されていたということさ。最初から転生などできなかった。絶無に騙された。それだけのことなんだよ」
アヒルが苛立たしげに吐き捨てた。
「どのみち三日の運命ですものねえ。ここで運命をともにするのもご縁と言うことなのでしょう」
射的台の一番下。パンダの脇にいる青い粘土のネズミはどこか諦めた口ぶりだった。その声音は男と女の中間で性別がわからなかった。
「そんなことないよ。少なくとも私と智洋は願いが叶ったよ」
ランチボックスは言った。先程の告白のことである。
「マキナ、こいつらに説明しても分からねえって」
水筒は諦めている。何より説明がめんどうだったのだ。
「馬鹿にされているのは心外だね。あたいには見えるよ。あんたたちの転生前の光景が」
アヒルが堂々と切り返す。
水筒とランチボックスはアヒルの方へ意識を動かす。黄色い粘土で捏ねられたアヒルは青虫の方を向いたまま言葉だけ続けた。射的台の景品は糊付けされていて動けないのだ。
「あんたらさ。ここへ来るまえは幼馴染みで仕事の同僚だったんだろう」
「そうですけれど」
ランチボックスと水筒は驚いた。言い当てられるとは思わなかったのだ。
「告白しようとすると災いが降りかからなかったかい?」
アヒルが質問を続けた。
「それは、確かにそうです。うっすらとは思い出しているんです。順番はバラバラなのですが──智洋が神隠しにあって、私もどこかへ投げ出されて事故で死にました。その前は私が他の誰かと結婚して、智洋が死にました。その前は殺しあった記憶があります。橋を作っていた記憶もあります。他にも色々とあって、今回だって告白しようとした矢先だったんです」
ランチボックスが知っていることを話す。水筒は聞かない振りをした。まだ前世云々のことに実感が持てなかったのだ。水筒も思い出しているがどれも楽しかった思いでばかりだった。例えば手作り弁当だとか、例えばおやすみコールだとか。他にもイベントがたくさんあったなあ。と言うような思い出はある。負の思い出は霞の奥だった。それでも結ばれないと聞けばそうだったと認めざるを得なかった。
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