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夫婦になって直ぐに新婚旅行の船が嵐で沈んだ。嫌な記憶を再び霞の奥に封じ込めて水筒は黙って会話に集中した。
「そうだろう。今回、あんたたちが揃ったことでこの有り様というわけさ」
アヒルが言った。水筒は伝説のことも考えていたがどうも記憶がはっきりしなかった。その間にもランチボックスとアヒルの話は続く。
「でも、どうして私たちは結ばれてはいけないのですか?」
「七夕伝説の男女の魂を引き継いでいるからだよ」
アヒルの説明は非常に簡易的であった。
「どういうことですか」
「七夕伝説を知ってるかい」
「織姫と彦星 の話ですか?」
ランチボックスは訊ねた。
一般的な伝説で年に一度、恋人が出会う日がある。二人は毎日遊んで仕事をしなくなったそうだ。そこでミルキーウエイの端と端に引き裂かれたという。どこかの惑星では七夕祭りと呼ばれ、一年に一度恋人が出会う日として盛大に祭りが開かれる。ランチボックスが口にしたのはその恋人たちことだった。
「いいや、違うね。結ばれれば、世界が滅びるゆえに結ばれてはいけない男女。ゆえに引き離された男女の話さ」
アヒルはさらりと否定する。
この星祭では三日目に太陽が沈み、空にはミルキーウエイという星屑の橋が架かると言われている。
そのミルキーウエイが架かる日に恋人同士が結ばれると星は一度死滅すると伝説がある。
ただし、こうして三日間祝い続けることで星の死滅を回避し、願い事を叶えることができるという風習もある。不夜の星祭では年月を経て、土地や区域で微妙に伝説が変わっている。
魂銃という銃器で魂を抜かれた彼らの命は祭りのメインである三日後と定められている。その日まであと二日、記憶と止めどない感情をもて余して射的台の上に居ることになる。欲求は絶無の腹に徐々に吸い込まれていく。彼らは物質に近づいていた。
「そうなんですね。だけど私でさえ隣に智洋がいることにきがついたのはさっきだったのにどうしてわかるんですか。何者なんですか?」
ランチボックスは不思議そうに訊ねた。
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