俺、元営業職。今射的の景品

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「ふん。ここへ来る奴等は転生詐欺に騙されたか勝手に絶無に反発してここへ送られたか、価値があると言って連れてこられたやつに決まってる。あたいの部下は絶無を信仰しちまっていて人質だよまったく」 アヒルがため息をついた。視線は青虫に向いたままだったが、そこにはやりきれなさがある。自分で自己紹介をする気分でも無いようだ。青虫に至っては無言だった。伝説に興味もないようである。 「アヒルさん。あなた宇宙海賊のお頭さんだったわね」 「だからなんだい」 「名前をジルといったかしら。その前が堕天の女神アスタルテという悪魔のようね。部下が全員神隠しにあったのよねえ。大変だったわね」 ネズミが他人事のように言った。前世が見えるのはアヒルさんだけじゃなくってよ。とでも言いたい様子だったが糊付けされていて振り替えれない。いや糊付けされていなくとも動くことはできないのだが。 水筒はアスタルテの名前に覚えがあった。神話に出てくる悪魔の女神だ。不夜の星際は転生した物や人間が集まってできたらしいという伝説は聞いたことがあるが神様まで転生するのかと驚いた。 「そういうあんたはなんなんだい。全裸で有名な変態さん」 アヒルが噛みつく。 「ワタシは八尋。転生詐欺に引っ掛かってもとの姿に戻るどころかネズミにされちゃったわ。いっとくけどワタシに服は必要ないものなのよ。それにみんな全裸でしょう。二段目の白い彼なんていい体してるじゃない。ウフ」 ネズミは優雅に答えるもこちらも詳しくは語るつもりはないようだった。微妙に言葉を濁している。水筒にはそんな感じがした。 ネズミが示した白い彼は無言であった。膝を抱えた土偶の後ろで固まっている。魂を抜かれて記憶すら──いや、もう昇天してしまった脱け殻だった。射的台に並べられたとき既に死んでいたのである。正直人間であったかも怪しい。魂を抜かれた生物は人間だけではなかった。 余談だが絶無の転生詐欺なる行為で植物にも魂はあると証明された。不夜の星祭では魂という存在が信じられていなかったのだ。もちろん転生の類いも伝説として扱われ、信用されていなかった。それでも転生を信じた者が絶無に騙されたのである。
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