俺、元営業職。今射的の景品

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悪党魂無のボス絶無が突然に現れて不夜の星祭に住んでいた人間の魂を抜き出したことが悲劇の始まりだった。最初は成りたいものに転生できるという企画から始まった惨劇だった。アヒルが言う転生詐欺である。人々は絶無の口車にのせられて命の源である魂と魂の器と呼ばれる肉体を捕られたのだ。その人数は数百万にのぼる。射的台に並べられた彼らは絶無のコレクションとなるのだと言われている。絶無を信仰し、崇拝しない限り転生の見込みはないと信仰者が喋っていた。 隣の射的台からは泣き声が。前面の射的台からは恨み辛みの声が祭り囃子の合間を縫って聴こえてくる。花火の音に掻き消されては次第にちいさくなっていく。 呑気な会話をしているのは取り分け、愛の告白を気だるく繰り返していた水筒の居る射的台だけだろう。 「あら、忘れていたわ。彼はもう死んじゃったのよね。ショック死というのかしら。頑張れば魂も体も元通りになると思わなかったかしらねえ」 ネズミが諦め半分で不思議なことを言った。 「元通りになる方法があるんですか?」 「マキナ。そんな方法があると思うか? ましてやネズミやアヒルが知ってるわけないだろう」 水筒はまだアヒルとネズミを疑っている。神様の転生とはいうが話が出来上がっているような気がしてきな臭かった。 「智洋はこのまま死んじゃってもいいの?」 ランチボックスは悲しみに満ちた声をあげた。彼女はネズミの話を信じているようだった。 「だってよ。俺らはここに糊付けされている。自由に動けない。三日後にはそこの白い彼みたいにただの置物になってしまう。こういうのって無だ足掻きって言わねえ?」 「そんなことないよ。今、聞いたじゃない。戻れるって」 「でもよ。戻ったって俺とマキナは結ばれないんだ。だとしたら最後の時間を楽しまないか?」 「嫌だよ。そんなの。みんな助かる方法はきっとある。みんなも考えて!」 ランチボックスがすがるように周りに訴えた。
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