36人が本棚に入れています
本棚に追加
それから暫く無言だったネズミが思い出したように言った。湿った風が吹いて、雲が流れた時だった。
「ひとつ知ってることがあるとすれば。魂と魂を結んで魂魂を生むことで願いが叶うという伝説があるということかしら」
「それならあたしも知っています。文献で読んだだけですけれど。本当ですか?」
ネズミの言葉にランチボックスが反応した。
「『魂魂祈祷一輪咲』という歌がある。条件を整えた上で唱えると魂魂になれると言うけれど。その言霊を忘れてるのよねえ」
「なんで八尋さんがそんなことを知ってるんだよ。マキナが大学で民族学を勉強をしていたことは知っているけどさ。八尋さんも同じなんですか?」
水筒が疑問を口にした。いきなり神様の転生後に出会ったということも信じることができない。自分とマキナの転生ですら実感がないというのに。
「ワタシは軍部の元特殊部隊の隊長。それになる前はちょっと名の知れた神様だったというだけ。皮肉なことに前世の記憶まで引き継がれてるから余計なことを知っているというだけね」
「俺たちが結ばれない前世を繰り返しているのと同じことですか」
「そう。神も人でも転生するんだよ。絶無はワタシたちの転生願望をうまく利用したということね」
「それで、魂魂になるにはどうしたらいいんですか。文献を読んだ限りではなる方法までは書いてなかったのです」
「確か条件はうつぶせにした槽の上に乗り、裳の紐を股に押したれて舞うことだね。魂と魂を結ぶ儀式に必要なのだけど体の無い貴女には無理だわね」
「そんなっ、それじゃあ意味がない。先に魂袋を絶無から取りもどさないといけないということじゃない」
ネズミの発言は見えた光を一瞬で握り潰すようなものだった。
「それにひとりの力では無理よ。貴女の恋人の協力が必要になってくる。救世主は二人から生まれてくる魂なのだから」
水筒は答えなかったがランチボックスは本気のようだった。
「智洋、協力してくれるよね?」
「それはともかく、魂を取り戻す方が先だろう?」
水筒はどこかで信じられずにいた。なにより動きたくない。仕事などしたくはなかった。マキナと話でもしていられればよかった。ただマキナの本気には気がついていた。ふたつの伝説の狭間で揺れていた。
最初のコメントを投稿しよう!