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「地下鉄の入り口ってあるでしょ?」
「地下鉄の入り口?」
「そう。 地上から地下へ続く、階段の降り口」
「あぁ。あるね」
「あの場所に立つとね? いつもすごく強い風が吹くの。
びゅぅびゅぅ台風みたいに。立っていられなくなる感じ。
吹き飛ばされて、吸い込まれそうになる」
「それは大変だな。 階段を転げ落ちちゃうだろ」
「だから小さな頃は私、お母さんの手につかまって、一歩一歩降りてたんだよ。
吹き抜ける風に身をまかせたら、きっと気持ちいいだろうなって想像しながら。
この先の暗闇の奥、深い洞穴のもっとずっと奥まで行って、誰も見たこともない奇妙な生き物と会話したりできないかな?
いつも、そんなことを考えてた。 ちょっとワクワク興奮しながらね?」
テーブルに頬杖をつき、彼女は夢見るような表情で語る。
「ふぅん」
相づちを打ちながら、ぼんやりと眺めていた。 友人の面影を残す、彼女のその顔を。
相手がチラリと目をあげて、こちらの視線をとらえる。
「ねぇ。 自分をモグラだと思ったことはある?」
「え、モグラ?」
彼女の話は、いつも取り留めがない。
ちょっと変わってる。 自分と同じで。 ……かって親友だった、アイツと同じで。
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