彼女。 モグラ。 妄想。

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「私はあるよ? 今でもけっこう毎日、モグラみたいな生活してるなぁと思ってる。 通勤電車に乗って、地下の深い所を走ってる時は、特にね? 川に架かる橋を渡る時だけ、一瞬、地上に出るでしょ? それまで真っ暗だった窓の外が、急にパッて明るくなって。 視界が開けたような気分で、目の中に飛び込んでくるのは、きらめく川面。 そんな風景に、毎朝、息をのむの」 「確かに、モグラが地上に出た時は、太陽の光が眩しいだろうね。 掘り進めた地面の先が、思いもよらず外界に繋がっていたら、きっとビックリする」 「驚いてひっくり返っちゃうかも。 だけど大丈夫。 そんなの、ほんの一瞬だけだから。 モグラの私はまた、慌てて地面の下にもぐるの。 川を渡り終えた、電車に揺られながらね」 「そういえばオレも、引きこもってた時期は、穴蔵みたいな部屋の布団の中にずっと潜り込んで、モグラみたいな生活だったな」 「日差しが怖かったんでしょ? モグラだから」 「そうだね。 昼間はずっと寝てた。 カーテンを閉めきったまま。 人と顔をあわせるのが、怖くてしょうがなかったんだ」 長い間、精神のバランスを崩していた。 医者にはうつ病と診断された。 薬を飲んでも改善されない、心の病におかされていた。 原因は簡単。 ……人を殺したからだ。 決定的な証拠なんてなくて、だから犯罪者として警察に捕まることはなかったけれど、償いきれない罪を犯した。
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