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知っている。わかっている。
俺は、帰還の糸口を探している。仕組みを理解すれば、もしかしたら……。
もう死んでいるのに。俺の身体は、もう別のものなのに。還ることは決して叶わないとわかっているのに。
それでも、憑かれたように俺は魔方陣を調べ続けた。
そうして、削られていく精神力に気力も抜け、俺は地下から出て居間へ行った。
ぼんやりと居間からサロンを眺め、何をしていたんだろうと自問する。
橙色の明りがカーテンを撫で、開けっぱなしだった窓から精霊が出入りしている。
今夜は、リオは神殿地下だっけ。呼ぼうかな。それとも俺が行こうかな。
ノエルはもういない。勇者とともに旅立った。
俺が唆し、俺がしたことだから見ていた。
やり遂げたノエルが微笑み、そうして倒れ、折り重なった二つの死体を見つめていた。
その後、転移して燃やした。
俺の口角は上がっていて、家に戻ってからは笑っていた。
庭で酒を飲み、笑っていた。
馬鹿みたいだ。何も知らない、何も悪くない勇者を殺した。
神の贄になるであろう勇者の魂を、救われない魂を。俺は自分のために差しだしたんだ。
脅威は排除する。それがこの世界で生き残るために、必要な残虐性。
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