朝の通勤で

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杏果は、いつもの地下鉄に乗って、ついウッカリ居眠りをしてしまっていた。丸ノ内線荻窪駅から西新宿まで、さほど長い距離ではなく、しかし疲労蓄積だったのか目覚めたら、周りに日本人が居なかった。最初は外国人観光客団体さんだらけだわ。銀座まで来てしまったのかと思っていたが、違う、ここは東京じゃないのだけは確かだった。とにかく地下鉄から降りよう地上に出ようと訳分からない駅の階段を上がり、辺りの景色を眺めた。ここは外国なのか、フランスしか行ったことがない杏果は、ここはパリだと気付いた。通っていた語学学校近くの駅だった。メキシコ人クラスメイトのヴィルジニアが学校から出て来た。「キョウカ、ボンジュール.遅刻したの。」って何故日本語話せるのか分からなかった。彼女はジュンヌフィーユオペールをしていたから、つまりベビーシッターしながらフランス人家庭に住んでいた。フランス人のヤンチャ坊主二人をいつも小学校に迎えに行き、ちびっこ二人は全速力で走るものだから、彼女と一緒にシェルシュミディー通りをダッシュして、杏果はパスツール研究所があるドクタールー通りのフランス人家庭に間借りしていたから、学校帰りはいつも走っていた。 しかし、留学したのは、もう何年も前の事で、何故なのと不思議なパリの世界に、きっと私は丸ノ内線にまだ乗っていて夢を見ているのだと思った。ヴィルジニアが「今日も走るよ杏果。」と言って駆け出したとたんに寒くなり目覚めた。やはり夢だったんだと地下鉄を降りようとして辺りをまた見回したら日本人ばかりだったが、皆オーバーやダウンコート、毛皮を着ている人達ばかりで、コートを着ていない杏果を不思議そうに見ていた。駅名は大通公園駅で札幌だった。階段を上がる前から寒くガタガタブルブル震えがきた。地上は雪祭り会場で、夏のサンダルに半袖服は死にそうに寒い。知らないお婆さんに「どうしたんだい。ハワイ帰りかい。」と笑われてしまった。近くの喫茶店に入り雪祭り期間中の値上がりコーヒーを仕方なく飲み、また夢だわと溜息をついた。
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