第一章

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「おじさん、いいものあげる!お守り。」 サチから、BKM48、とあるCDを渡された。仲間たちと自主制作したんだそうだ。センターで歌ってるから聞いて!と言っていた。今渡さなくてもいいだろうに。まあいいか。 「CDじゃセンターかどうかわかんねえだろうが。」 僕がリュックにしまいながらそう言うと、 「あ、ばれた?しかも五人だし。」 と笑っていた。 息子二人は久しぶりに会う少しきれいになった女の子に照れているようだ。サチがつかつかと歩み寄り、 「おはよう、久しぶり!おじさんにお守り渡しといたから。」 そして、父親の方に向き直り、言った。 「パパ、気をつけて帰ってきてね。」 僕は微かな違和感を覚えた。何となくサチが不安そうに見えたのだ。不安は口に出すとより現実に近づくと信じているかのように、わざとはしゃいだふうを僕に見せたのでは…。 気をつけて。帰ってきて。 だが、その違和感はすぐに薄青く明けかけた海に吸い込まれて消えた。
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