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そして、気づくと陸地の見えないこの岩場になんとかたどり着いていた。
友船長の姿は見えない。二人の息子が同じ岩場でとりあえず助かっていることがせめてもの幸運だ。
二人は見るからに意気消沈していた。まだ二人とも水から上がって時間が経っていないのだろう。全身濡れたままだ。カズは肩で息をしている。いや、もっと小刻み…震えているのか。カズは弟らしく普段はお調子者だが、その分気持ちをストレートに出す。不安で仕方ないのだろう。
一方ヒロは、責任感の強いお兄ちゃんだ。弟を不安がらせないよう頑張っている姿が痛々しい。
しかし、僕も打つ手がない。
「助けが来るから、それまで我慢しような。」
そう語りかけるだけだった。歯がゆい。二人はなにも答えず、波と風の音だけが頭の中で続いていた。
転覆なんて信じられない程の穏やかな海。太陽の陽を浴び、じわじわ体から水分がとんでいく。何も言わず二人は我慢している。僕も言葉が出なかった。
しかし、日の落ちるまでの数時間、航行する船の姿を一度も見なかった。不安が胸を埋めていく。
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