例えるなら今の僕らは、雨粒だって弾く瑞々しい若葉の緑

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隣のレーンで飛沫が止み、遼子が立ちあがる音がした。続いて姫乃の悔しがる声が。 「あーまた、遼ちゃんに勝てなかった!」 「姫ちゃんたら、今日は違うでしょ?」 笑いながら遼子が応じると姫乃はそうだったと言うようにアガサを見上げた。 ダイバーウオッチでそれぞれのタイムを確認しながらアガサはいいぜと頷いた。 「遠慮なく鍛えてやる」 キャーとはしゃぎ廻る2人の横を僕は通り過ぎる。コホっと浅い咳が数回出た。 ひなた、ひなた、だいじょうぶ?と瞳が駆けてくるのがわかった。多分彼女の方が今はきっと泣きそうな顔をしている。見なくても僕にはわかる。 「だいじょうぶ」 けど、ちょっと先に帰る。 ビーチタオルを頭から被り振り返りもしないでプールサイドを歩き始めると、数人のギャラリーが半分に割れて通り道ができた。 後ろで、だいじょうぶだからほっとけというアガサの声が聞こえた。そうですよー瞳せんぱい、遊びましょうよーとはしゃぐ姫乃の弾んだ声。 こんなの想定内の結果だ、悔しいけど。 そして、悔しいけど、どよんとした 冷たい灰色の感情に支配されて振り回されるのもまたごめんだ。 それら全部にまとめて蓋をして見ないように感じないように。僕は更衣室へと続くドアをパタンと閉めた。
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