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「あれ、工藤。休部届け出したんじゃなかったっけ?」
部室に入ってきた役所かず部長が机の上でトントンと部員に配るプリントを揃えながら声をかけてきた。
と、言っても大して関心がある様ではなく顔は僕の方には向けないで、その後には黒板の日付を書き直し、てきぱきと机を部会の配置に並べはじめる。
「瞳ちゃんとけんかしたんだ」
ぷぷっとわざとらしく、吹き出して笑われるのもいつものことだ。
僕はそんな部長には何も応えず、動かす必要のない隅の机に陣取ったまま、意味もなく星座早見盤をくるくる廻している。
「…次の観測会っていつでしたっけ」
「夏休みに入ってすぐだけど、工藤はその頃合宿だって言ってなかったけ?」
ほらスカイなんとかってやつの。
話しながらかず部長は黒板に、今日の部会の勉強会のテーマの夏の大三角形の星座と、主な星の名前を書き込んでいる。
小柄なかず部長は黒板の3/4当たりから板書をはじめるので下の方でいつも文字が詰まり、最後はとてつもなく文字が小さくなるのだ。チョークでよくもあんな小さな文字が書けるものだと、僕らはいつも感心している。
関係ないですよと言おうとして、流石にそれは大人げないなと止めておいた。
そういえばそのスカイなんとかと、かず部長は手についたチョークの粉を払いながら僕の方を向いた。
「監督が決まったそうだね」
ガタンと僕は思わず立ち上がった。
「誰ですか」
んー誰だったっけ?他の生徒たちはざわざわしてたけど、自分に関係ないことってあたし、すぐ忘れちゃうんだよねーとかず部長は首を傾げた。
「掲示板に張り出してあったけど、部室も決まったみたいだから、そっちに行った方が早いかも」
「部室…」
「ここの真下だったよ」
部長が床を指差した。それはだから、覚えてたんだよねー。ころころとかず部長が笑った。
ここ天文部は北専門棟3階のいちばん端っこの美術準備室。真下は家庭科調理室だ。
「観測会、夏休みだから、そのスカイなんとかの子たちも連れといでー」
飛び出して行こうとした僕の背中を部長の言葉が追いかけて来る。
「あざーす」
部室の入り口で下げた頭を上げると、がんばれとでもいうようにひらひらと部長が手を振っていた。
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