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 男は腕時計を見る。時刻は深夜十二時を回っていた。  松永の言っていたアレとは何なのだろうか。偶然にも雨も降っている。何かが起きる予感がしてたまらない。  しかしずっとここにいる訳にもいかないため鞄を頭上に掲げタクシー通りまで走ることにした。  オフィス街を右に曲がり、さらに左へ。そして近道のビルとビルの間の細い道を通る。  その道に入ったことで幾らかの雨はビルで遮断され、やっと一息つける。スーツと鞄は当然びしょ濡れだ。  その道の先に誰かがいるのが見える。おそらくだが、男と同じようにここで一息ついているのだろう。 『ねぇ……』  何か聞こえる。女性の声だろう。外の豪雨の音を遮るように確かに聞こえた。男は辺りを見渡すが当然誰もいない。 『ねぇ……傘』  まただ。また聞こえる。心なしか声が近づいている。
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