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揺れ動くブランコ
昼間は幼稚園の帰りに嬉しそうに漕ぐ子どもたち。そして夜になると疲れを休めるかのようにつぶやきながら漕ぐサラリーマン。その他にも色々な人が漕いだだろう。
そして深夜二時、ここにもまた一人の男性が酔いに潰れながらブランコを漕いでいた。鉄筋に繋がられた鉄の鎖の下にぶらさがる板。それが二つ地面の上で動いている。一つは酔いに潰れた男性。もう一つには誰も乗ってなかった。
その男性は怖がってブランコの揺れが止まらない。それどころか隣のブランコは彼のブランコの揺れを真似するかのようにして同じ揺れ幅で動いている。
彼は体中汗ばみ始めたが、酒で酔っただけだと落ち着かせた。なぜなら、手が滑って鎖から離れたら体は飛ばされてしまうからである。真下に落ちればブランコの板が直撃して体を痛めてしまうし、振り落とされれば腰から打ってしまう。それだけならいいが、頭から落ちてしまったら首が折れたりなどありえるだろう。
彼は止まるのを待つことにした。そう決断した時だった。
「お兄さん、顔……青ざめているよ」
いきなり声がかかる。隣のブランコに可愛らしい少女が漕いでいた。
「俺、呑みすぎたかな?女の子が見える」
「お兄さんは見えてるよ」
その女の子はにこやかに笑う。その顔が後ろから街灯に照らされているため少し不気味に見えた。
「お嬢ちゃん、こんな時間にブランコ漕いでたら危ないよ」
「お兄さんだって……」
「お兄さんは大人だからね」
「そう?」
「お嬢ちゃんは友達とよくブランコで遊ぶの?」
「友達……そうね、もうすぐ手に入るかな」
すると彼女は『友達百人できるかなー。百人出来たら入れ替わりに。ブランコを漕ぎ合うよ』といった感じで歌いながら漕いでいる。
いつの間にか私たちのブランコの揺れ幅が小さくなり、女の子は立ち上がった。
「お兄さんは最後の友達にしてあげるね?それじゃあ……」
「不審者に気をつけてね」
彼はそう彼女に声をかける。彼女はしばらく歩いたかと思えば砂に吹かれた風と共に姿を消した。彼は身震いをして彼女の言葉を脳裏に繰り返した後、その言葉について疑問に思った。『最後の友達』とは何かということについて……。
彼はそのことを考えながら闇の中へと消えていった。
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