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そんなある日、亜弥のもとに黒川ヤヨイ本人から、一冊の本が送られてきた。それは彼女が書いた推理小説で、まだ発売されていないものだった。
タイトルは、『しおりのさきにある殺意』
そんなことは初めてだったから、亜弥は驚いた。そして黒川ヤヨイの行動の意図がわからぬまま、その本を開いた。
【主人公は読書好きな女性A……、Aはいつも読んだ本の感想を、SNSに書き込んでいた】
「なにこれ、私のことみたい」
亜弥は思わず笑ってしまった。だが、ページをめくるたび、その顔から笑みが消えていった。
【Aは辛辣な感想ばかりを書いた。そしてその厳しい感想の多くは、ある女性作家Yの作品に集中していた。作家Yは大勢の人間に影響力を持つAの感想に恐怖心を抱くようになり、次はどんな厳しいことを言われるのだろうと考えると、小説を書くことすら怖くなった】
それはフィクションというよりも、黒川ヤヨイ自身の思いを綴った文章のようだった。見覚えのある辛辣な感想文の内容や作家Yの心情と恐怖が、何ページにもわたって具体的に描かれていた。
確かに、亜弥が黒川ヤヨイの作品に対しての辛辣な感想をSNSに書くと、亜弥のファン「姫ジャンキー」たちもネットの至る所で黒川ヤヨイへの攻撃を始める。
彼らの攻撃はいつもヒートアップして、作品だけにとどまらず、最後には黒川ヤヨイの人間性にも及んでしまうのだ。
そしてその起爆スイッチを押しているのは、姫乃亜弥本人ということになる。
もし、黒川ヤヨイが小説と同じ恐怖を感じていたなら……、そう考えると亜弥は複雑な思いがした。
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