亡き王女のための夜光祭

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 朝焼けが荒れた海を赤く照らし始め、瓦礫の山と化した城が茜色に染まる。  夜が終わり、朝が来る。  吸血鬼としては低級、モルガンの眷族でしかないリューナにとっては、日光は天敵以前の問題だ。  青白い肌がぶすぶすと焦げ始め、人の焼ける臭いがラシヴェルの鼻を刺した。 「リューナ……」  本当にこのような結末しか無かったのだろうか。  まるで浅ましい魔物の最期だ。  次に彼女が目を開ける時、リューナの身体がまるっきり元通りになっているような、そんな奇跡は起きないのだろうか。  焦げ跡が広がっていくリューナの肌を為す術もなく見つめながら、ラシヴェルは涙した。  何が宮廷魔術師……  最後の最後まで、負けっぱなしの情けない男だ。 『ラシ……ヴェル……?』  視界を覆う涙の幕の向こうで、リューナがゆっくりとその目を開ける。  その瞳は血のように赤く、話す口には白い牙が覗く。  リューナは変わらず、吸血鬼のままだった。  モルガンによって不可逆的な変質を強いられた身体は、巨人の生命力を以てしても治癒は出来ない。 「リューナ……申し訳ありません……俺は最後まで、あなたに助けられてばかりだ……守ることも……止めることも出来なかった……」  瞳の色は禍々しくとも、穏やかな目でリューナはラシヴェルの懺悔に耳を傾ける。  やがてリューナは口を開こうとしたが、既に焼け爛れている喉は多くを語れそうになかった。 『“わたし”は……十分、救われ……ました……十分過ぎるくらい……』  何度もつっかえながら、リューナはやっとの思いで言葉を紡いだ。  小鳥のさえずりのようだった美しい声もしわがれ、ひゅうひゅうと喘鳴が混じる。 『ラシヴェル……最後のわがまま……聞いてくれますか……?』  リューナは、眼下に広がる荒れた海を見下ろした。  モルガンが、年に十二人の子供達の生贄と引き換えに魔術により安寧を保ってきた海も、今年は夜光祭が正しく行われなかった為に荒れに荒れている。  波は高く所々渦巻き、沖合の風も強い。  この港街ポート・テオドリックにとっては、多分に歪んでいるとはいえ、夜光祭は街の生命線だった。  これでは貿易船は出入りできず、漁船も海に出られない。  「なんなりと」と返すしか無い魔術師に微笑みかけ、リューナは最後の願いをラシヴェルに語った。
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