亡き王女のための夜光祭

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「リュー……」 『リューナがそんなこと言うかーッ!!』  言いかけの台詞は、突然耳元で発した鋭い怒声によって遮られた。  予想外の者が発した予想外の言葉に、場の空気が凍りつく。  ラシヴェルは呆然と、リューナはその笑みを消して、その想定外の存在を見る。  呆気に取られた二人の視線は、顔を真っ赤にしてパタパタと羽ばたく小さな妖精に向けられていた。 「リ、リンクル!?」 『リューナはそんなこと言わない! お前なんか偽物だッ!』  強敵と相対す時はラシヴェルのローブのフードか、バッグに隠れて出てこないリンクルが、目の前の暴虐の姫を糾弾するために全身を声にしている。  それは余りに意外な指摘だった。  リンクルとは、あの日、エッケザックスの裁きから何故か助かり落ちた魔界で出会った。  魔界で気を失っていたラシヴェルにイチジクの葉ですくってきた朝露を飲ませ、マグダレーナが喚び出す怪物達が闊歩する世界を生き抜く術を教えてくれた恩人でもある。  リンクルにはリューナの事を何度も聞かせているが、面識は全く無い。  ラシヴェルの思い出話から想像する人物像との齟齬を指摘するにしては、その口調には妙に確信めいたものがあった。 「お前……」 『あ、あれ? ボクどうしたんだろ……?』  全身が真っ赤になるほど憤慨していたのをけろっと忘れた様子で、リンクルがはっと気づく。 『……いったい何ですか、“それ”は……?』  突然現れた妖精に自分を全否定され、リューナは生来の寛容さを忘れて静かに語気を強めた。  血のような紅い目に射られ、リンクルは『ひゃあっ!』っと素っ頓狂な声を上げてラシヴェルのフードに隠れる。 『お、怒ったかな……?』 「たぶんな。でも、それで良い」  リンクルの言葉は、意図せずしてラシヴェルにリューナがもはや異形の魔物と化している事を再認識させるものとなった。  優しいリューナは既に死んだ。  巨人の再生力でさえ元に戻らなかった吸血鬼の身体を救う術は無い。  不可逆的な怪物となったリューナを救う手立てはただひとつ。 「リューナ。俺は君を救う」  それが、“救う”という言葉そのままの意味でない事は、リューナにもわかっただろう。  貼り付けていた笑顔を消し、リューナは虫を見る目をラシヴェルに向ける。  大して感慨深そうにもない声で、リューナは口を開いた。
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