亡き王女のための夜光祭

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 僅かに捉えられたのは、目の端で翻った不死鳥のマントと、この伝説の宝物が放つ火花の燐光のみ。  背後に回られたと辛うじて判断したのは頭だけで、身体は動き出す事すら出来ていなかった。  ラシヴェルがようやく振り向いた瞬間、ひゅっ、という小さな風切り音が耳を軽く叩いた。  リューナは既に槍を横薙ぎに振り終えた後であり、ラシヴェルの視界に入ったのはリューナの邪悪な笑みと、それこそ何が起きたのかわからないという顔でこちらを見るリンクルの見開かれた目だった。 『え……』  ラシヴェルでさえ目で追えなかった。  リンクルにとっては全く認識の外での出来事だっただろう。  軽く後ろから突き飛ばされたような格好のリンクルと、明らかにリンクルに対して向けられたリューナの笑み。  ラシヴェルは何が起きてしまったのかを理解した。  理解してしまった。 「リン……ク……!」  父王や他の王子達では持ち上げる事さえままならなかった重槍、それをフォークやナイフの様に扱えたリューナの、繊細な、そして正確な槍さばきが為せる業。  ラシヴェルが伸ばした手がこの小さな妖精を受け止める前に、リンクルは魔術師の目の前に赤い華を咲かせていた。  薄皮一枚、しかし太い血管を精密に裂かれたリンクルは、首筋から血を噴きながらようやく追い付いたラシヴェルの手の中に収まった。 『わたしたちの間に入ってくるからですよ。ねぇ、ラシヴェル?』  槍の穂先に僅かに付着したリンクルの血を指先で拭って自らの舌に塗り付け、リューナはラシヴェルの手の中の妖精を見下ろす。  顔をしかめ、『赤くても卑賤の血、ひどい味ですね』と続けたリンクルへの侮辱は、殆どラシヴェルの耳には入らなかった。 「リンクル! リンクル!! 目を開けろ、リンクル!」  ラシヴェルの必死の呼び掛けも虚しく、リンクルが横たわる彼の両手のひらの上は血の池になっていく。  傷口を指で押さえながら、ラシヴェルは必死に修復魔術を唱えた。  しかし流れ出た血は戻す事も出来ず、ラシヴェルの手の中でリンクルは見る見る衰弱していく。  弱まっていく鼓動と、浅くなっていく呼吸。  苦悶の表情を浮かべながら、リンクルが目を開ける。  焦点の定まらない目でぼんやりとラシヴェルを見上げ、リンクルは呟いた。 『はは……やられちゃった』
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