亡き王女のための夜光祭

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 月穿つ巨人の槍エッケザックス――  扱き出せば岩をも貫き、振れば千の魔物を薙ぎ払う神造兵器。  殺意を以て繰り出された聖槍の切っ先が、獲物を前にして“止まる”。  建国王エッケ以来の槍の担い手リューナは、僅か十八年の生前にくぐり抜けた数多の戦場も含めて、その光景を初めて目の当たりにし、驚愕を禁じ得なかった。  隣国ベルンの王子ガリウスのミスリルの鎧を一撃で刺し貫いた槍が。  毒竜ファヴニールの装甲を容易く突破した槍が。  “巨人リューナ”必殺の一刺しが。 『止められた……!?』  ラシヴェルの心臓を確実に打ち抜く渾身の「突き」は、確かに放たれた。  そして、防がれたのだ。  ラシヴェルの左胸から僅かに一センチ足らず。  更には押す事も引く事も出来ない。  その場に固定されたかのように槍の穂先が動かない。  いや、身体そのものが動かない……!? 『ラシヴェルッ!! 往生際の悪い……何をしたのです!』  この期に及んで小細工を、それも巨人を驚かせる程の小細工を弄した目の前の魔術師を睨み、リューナは吠えた。  だが目前のラシヴェル自身も、この状況に驚嘆を隠せないようだった。  目を見開き、状況を把握出来ていないのは魔術師も同じ。 『あなた……何を……』  妖精の亡骸を抱いて跪くラシヴェルの目は彼女ではなく、虚空を見つめているように見えた。  ある空間に焦点のあった目。  呆然と虚空を見上げながら、彼女の目の前でラシヴェルは確かに呟いた。 「…………リューナ……?」
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