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十年前、モルガンによって眷族に変えられた彼女を、助けることが出来なかった。
リューナは操られるままに自らの手で忠誠を誓う近衛騎士団を鏖殺し、エッケザックスを使って愛する民の住む王都を破壊し尽くした。
身を裂かれるような思いだっただろう。
あの時は救えなかったが、今度こそ、救ってみせる。
リンクルの為にも――
ラシヴェルは大地を蹴り、姿勢低くリューナへと迫った。
意図を察したリューナが恐怖に後退ろうと試みたものの、ラシヴェルにしか見えない“リューナ”がその肉体を抑え込み、吸血鬼は指先一つ動かす事が出来なかった。
「リューナを……!」
ラシヴェルは右手を振りかぶり、地を駆ける勢いをそのまま借りてリューナの懐に突っ込んでいく。
恐怖に歪んだその顔を見ながら、ラシヴェルは振りかぶったその手を、リューナの左胸の孔に殴り付けるように突き入れた。
「リューナを返せぇぇぇぇぇぇっ!!」
リューナの魂が宿るリンクルの血に濡れた右手が、吸血鬼の身体に突き刺さる。
その時、紅い目を見開きラシヴェルへの憎悪と恐怖を剥き出しにしたリューナの相貌(かお)と、蒼い瞳の輝く目を細めるリューナの優しげな顔が、ふと重なり合ったように見えた。
――すまなかった、リューナ。
思えば一度も謝っていなかった。
君を守れなくてすまない。
また大切な人を守れなかったよ。
リンクルは許してくれるだろうか。
ラシヴェルの右手が突き入れられた左胸の孔の周りから火ぶくれが拡がり、リューナの神代の肉体が焼け爛れていく。
白目を剥いた吸血鬼の、獣のような絶叫が夜明けを前にした藍色の空に響き渡った。
『がッ、ああああああああああああッ!』
リューナはその場に仰向けに崩れ落ちる。
彼女は自らの魂でその身を焼き、自決したのだ。
日の出を前にしていよいよ白む東の空には、明けの明星が一つ輝く。
そこは王家とは何のゆかりもなく、偉大な先王達が眠る陵墓からも程遠い。
旧い巨神の一族、そのただ一人の末裔リューナの最期の場所としてはあまりにも寂しい丘の上、ただ、何処よりも静かで朝日の美しい場所。
それが最後の巨人リューナの死に場所となった。
リューナと向かい合うようにラシヴェルもうつ伏せに力尽きる。
夜光祭の夜が終わろうとしていた。
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