亡き王女のための夜光祭

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 その時、店内の奥にあるスタッフルームのドアが開き、鋭い怒声が子供達を蹴散らした。 「こらぁっ! 店の中ではしゃぐなっていつも言ってるでしょおっ!!」  茶髪を後頭部で結い上げた女性の男勝りな声が店内に轟く。  小麦色に焼けたリーダー格の少年が目を剥いて叫ぶ。 「げっ、マイだっ!」 「マイぃ? マイお、ね、え、ちゃ、ん、でしょうが!」  彼は哀れすぐに女性に捕縛され、両手の拳で両のこめかみをぐりぐりと擦る制裁を受ける事になってしまった。  蜘蛛の子を散らすように逃げ出した子供達をなおも追い掛けようとする酒場の女店主に、奥の卓に腰掛けていた男は笑いかける。 「それぐらいにしてやってくれよ、マイちゃん。彼等は俺のつまらない話に付き合ってくれてたんだ」 「あ! 帰ってたの!?」  眉間にしわを寄せていた女店主の顔がぱっと明るくなる。 「あっ、赤くなった……あだだだだ!」 「こ、の、ガキー……!」  ませた少年に制裁を加え続けながら、街一番の人気酒場の女店主マイは「またミーナのわがままに付き合っちゃってもらってごめんね?」と男に詫びる。 「あの子、いきなり死の谷の温泉巡りがしたいだなんてわがまま言って……」 「いや、おかげで稀少な薬草が少しだけど手に入ったんだ。これでトレノじいさんの胆石が良くなる」 「トレノさんは少しお酒控えないとダメなのよ。ラシヴェルさんの薬が効くからって歳も考えないで……昨日なんて漁帰りにラム酒を半ダースも飲んで行ったのよ?」 「さすが……酒が不味くなる薬を処方するかな」 「あ、それいいかも!」  ぱん、と手を叩いたマイと、魔術師は笑い合った。  この国最大の港街ポート・テオドリックを拠点に活動する魔術師ラシヴェルの数ヶ月ぶりの帰還に、街の子供達は冒険譚をせがむ。  勿論、街の人々はラシヴェルがかつて宮廷魔術師として数々の逸話を残した人物である事など知らない。  子供達にとっては、いつもオチの同じな、途中までは面白い話をしてくれる薬師程度の認識だ。  信じられないほどの穏やかな日々が続いている。  リューナの導きのおかげで。
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