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『昨日聞いた話』を話してはいけない。
それは、どこからともなく噂になった言葉。
曰く、『昨日聞いた話』は、今日を奪う。
曰く、『昨日聞いた話』は、一日しか存在しない。
わけの分からない言葉遊びのようなその噂は、瞬く間に、噂に疎い私の耳にまで届いてきた。
チャイムが鳴った後の昼休みに、突撃してきた幼馴染み兼友人によって。
「ねぇねぇ、知ってる? 『昨日聞いた話』の噂」
「昨日聞いた話? 昨日、何かあった?」
「違う違う。って、そういう反応ってことはやっぱり知らないのかぁ」
「?? よく分からないけど、それがどうかしたの?」
そう言うと、私の幼馴染み兼友人である里奈は、よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに、ない胸を張って『昨日聞いた話』の噂について教えてくれた。
「ってなわけで、奇妙な噂が蔓延中なのだよ、本の虫で噂に疎い藍果ちゃん」
ふふんっと上から目線で腕を組む里奈。
それを見て、私はもちろん、やられてばかりなんて無様はさらさない。
「そう。それで、結局何が言いたいのかな? 今日で三十五回目の告白をして、三十五回目の失恋をした里奈」
「うぐっ、それを持ち出すのは卑怯よっ」
「先にバカにしたのは里奈の方。自業自得。そんなことより、話の続き、プリーズ」
「藍果が冷たいっ」
わざとらしく胸を押さえる里奈の姿に、その失恋がそれほど堪えているわけではないことくらい容易に分かる。
だから、私は無言で、絶対零度の視線を里奈へと注ぐ。
「うっ、わ、分かったから、その、虫けらでも見るような目はやめてっ」
「正しく、里奈は今の今まで虫けらだったよ?」
「うわーんっ、藍果の毒舌が冴え渡ってるぅ」
「よしよし、今度はゴミクズを見る目に変えてあげるから」
「わーい、って、今度は生き物ですらなくなった、だと?」
「良いから話の続き」
「ひゃいっ、りょうきゃいひまひたっ」
このままでは、本当に話が進まない。
そう思って、私は里奈のほっぺを引っ張って続きを要請すると、良い返事をしてくれた。
これで、やっと話が聞けそうだ。
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