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「それがさ、いたんだよ。『昨日聞いた話』を話しちゃった人が」
里奈は、人目を憚るように私に顔を寄せて、こっそりと話す。
そんなことをしなくても、昼休みの今は、皆思い思いに散らばっていて、こっちの会話なんて聞いていないとは思うけど……。
「そもそも、昨日聞いた話なんて、誰でも話しうることだと思うけど、その『昨日聞いた話』は、普通の話とどう違うの?」
「うーん、何というか、一言で言うなら『異質』らしいよ?」
「『異質』?」
「現実にはあり得ない状況で聞いた話みたい。そこら辺は詳しく知らないんだけどね」
「ふーん。それで、その『昨日聞いた話』ってどんなのだったの?」
「そうっ、それなんだけどね。何か不思議な言葉だったんだよ。確か……」
言いながら、里奈は手に持っていた手帳を捲る。
里奈の手帳は、色々な噂話の宝庫らしく、一部の人間からは恐れられているらしい。
ただ、学校で一番の情報通ということでもあるため、学校内のことなら、大抵里奈に聞けば分かるから、とても便利ではあった。
「『犬神様がお怒りだ。わたを差し出せ、罪人(つみびと)よ』だって」
「犬神様、ねぇ」
「ちなみに、この話をしたのは、犬を虐待したことがあると噂の、三組の高城君だよっ」
「それ、ただ罪の意識で変な夢を見たとかじゃないの?」
三組の高城君といえば、一年の時に同じクラスだったはずだ。
顔くらいは分かるものの、その人間性なんて全く知らないから、犬を虐待していたと聞いても驚くことはない。
そうして、至極全うな意見を出してみると、里奈は何か納得できていない様子で首を捻る。
「うーん、それがさ。どうもそんな様子じゃないんだよ。本当に、かるーく、『昨日聞いた話を本当に聞いたから話してみてる』みたいな様子だったし」
「どういう状況でその話を聞いた、とかは?」
「あぁ、そっちは、『昨日が繰り返された』って言ってたよ。意味が分からなかったけど」
むむぅと唸る里奈を見て、私は『確かに』と内心同意する。
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