夢うつつ

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どれほど寝過ごしただろうか、遠くの方でドンドンと何かを叩く音がして微睡みの中からうっすら目覚める。財前の頭のなかにはまだまだモヤがかかったままだった。 音はしだいに大きくなり、ドカン!とけたたましい音が鳴り響いて止まった。 「おぅクソガキ、こんな時間までお休みたぁイイご身分になったもんだなぁ」 鬼蔵が木刀を肩に担ぎながら枕元に歩み寄ると、ズドンと木刀を財前の顔の真横に突き刺し、ウンコ座りで真上から顔を覗き込んだ。 「もう天狗か?貴様もクソ以下か?」 鬼蔵は布団の隅を掴むと、一気に財前ごと空中に布団を跳ね上げる。 「さっさと支度しろ馬鹿野郎!」 財前は着地と同時に、ふて腐れた顔で鬼蔵を睨み返した。 「別に標的なんか今日斬らなくたって、明日いくらでも斬れるじゃないですか。なんかもう、少し飽きちゃったんでンガ!」 財前が言葉を言い終える前に、鬼蔵の鉄拳が財前の顔面をとらえた。鬼蔵が財前には初めて鉄拳を使ったのだ。財前は数メートルも吹っ飛ばされ起き上がるコトができない。 鬼蔵の拳には、今までと違う種類の怒りと悲しみを感じ取った。 「馬鹿野郎・・・」 鬼蔵は倒れている財前に一瞥投げかけると、寂しげな背中を見せて出ていってしまった。
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