爺ふたたび

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「磯部さん」 磯部は、鬼蔵が敬称をつける存在であった。 「おや?鬼蔵君ではありませんか」 鬼蔵が天国センターに帰っていることを知っていて追いかけてきたのだが、あえて偶然を装ってみせた。 「この時間に帰っているなんて、珍しいですねぇ。今日はお休みでしたか?」 「あ、いや・・・」 穏和に話しかける磯部の問いに言葉が詰まる鬼蔵。 「そういえばさっき、財前様が樹海の方に走って行くのを見かけたので、てっきり鬼蔵君も一緒だとばかり思っていましたが」 「樹海だって!」 驚きでつい声が大きくなってしまった。 「いくら財前様でも、一人では危険な場所です。早く行っておあげなさい」 磯部がニコっと笑いかけると、いちどコクリとうなずき、タバコを揉み消して走り去ろうとして、立ち止まった。 「磯部さん、ありがとうございます」 頭を下げる鬼蔵にニッコリ笑って応えた。
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