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 かいつまんで言えば、彼女には帰る家が無いという。  東京に来た用事がまさにそれで、つい先だって家族を亡くし、他に身寄りがなく、遠い縁戚を頼って、着の身着のままやってきたという。  これからどうするつもりかと尋ねれば、 「お世話になったお礼をさせて下さい。ただ、手持ちがほとんどありませんので、身の回りのお世話くらいでしょうか。もしお邪魔であれば、かねての通り親戚の家を訪ねて、後日何がしかのお礼に参ります」  と、この耳が確かなら、このままここに居たいようなことを言う。  その親戚の家には置いてもらえそうなのかと聞けば「どうにかお願いしてみます」と曖昧に答える。  どうにもうさんくさい。  目の前の彼女は居ずまい正しく、育ちの良さは疑いようもない。  背はすらりと高く、肩揃えの黒い髪は血の気の戻った桜色の頬から白い首筋にさらりと流れる。  すっきり通った鼻筋と、艶のある口唇と、瞳は切れ長の一重で、眼尻からまぶたのあたりにかけて、ほんのり紅が差している。  現代の基準に照らせば万人受けする顔立ちではないが、一重まぶたに色気あり、と常日頃から熱く語ってきた我が身にとっては、まさにあつらえたような美女だ。     
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