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 ホテルと呼ぶにはややこじんまりした宿だったが、清掃は行き届いていており、サービスも良い、食事も旨い、オマケに温泉までついている。これで一泊、樋口一葉にお釣りが帰るとは安すぎる、何か曰くでもあるのだろうかと訝しんでいたが、翌朝、大黒顔の主人にタンチョウの事を訪ねて、ワケはすぐに分かった。 「この時期だと、一番確実なのは保護観察施設ですね。暖かくなって餌も増えてきたので、みんな湿地の奥に引っ込んじゃって、このへんまで出てこないんですよ」  タンチョウの見頃は冬の十一月から、遅くとも三月くらいまでだという。  寒さで不足しがちな餌を求めて人里まで出てくるのを、餌付けしたり眺めたりして愉しむものらしい。餌の豊富な春から秋にかけては巣に引っ込んで子育てに勤しむため、滅多にお目にかかれないとか。  タンチョウも見られず、出歩くにはまだ肌寒いこんな中途半端な時期に、他にこれといって見どころもない辺鄙な村までわざわざやってくる間抜けはあなたくらいのものですよ、と言外に言われたようなものだ。レンタカー屋の店員はきっとこれを知っていたに違いない。 「湿原は天然記念物区域でして、しかも私有地なので、立ち入るには許可が要るんです。まァ運が良ければどこかそのへんで会えますよ」  闊達に笑う主人の笑顔が憎らしかった。
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