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 緑のサバンナに焼けた夕日が落ちていく。  吹きさらしの展望台から橙に染まる地平を眺めながら、この光景が見れただけでも来た甲斐はあったと心の中で嘯いた。  ジーンズの裾から這い上がる寒さに身震いが止まらない。  一日がかりで湿原の回りをぐるりと巡ってみた。  はたしてその甲斐あって、タンチョウには無事出会えた。  湿原の彼方でうごめくごま塩の如き白黒の粒がそれだったに違いない。あいにく双眼鏡の持ち合わせなどなかったが、きっとそうに違いない。  最寄りの保護観察施設にも足を運んだ。  療養中のタンチョウを鉄格子越しに眺めて、動物園の気分を存分に堪能した。  頼めばもっと間近で見られたのかもしれないが、傷病の身とあらばそれも忍びない。  帰りがけに受付で施設のパンフレットをもらったのは、せめてもタンチョウを見たという実績が欲しかったのかもしれない。 ――帰るか。  一応の目的は達した。  釈然としない気持ちもあったが、もとより思いつきの旅だ。上手くいかないことだってある。  明日の朝一でホテルをチェックアウトして、札幌まで引き返そう。  浮いた予算で夜の薄野にでも繰り出せば、空いた心の隙間も少しは埋まるに違いない。     
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