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 実家の宗派なんかろくすっぽ知らないし、神社の作法だってうろ覚えだ、十字を切ろうにも上からだか横からだか分からない。今なら玄関先でチャイムを鳴らすうさんくさい宗教の勧誘にだって喜んですがってみせる。  逃げたい。  しかし、逃げるとなると重大な問題がある。  すすり泣く茂みに背を向けることだ。  それは可能か。無理に決まっている。  固唾を飲んで、覚悟を決めた。  恐怖とは未知だ。真実を突き止めることが不安を拭い去る唯一の方法だ。  にじるように歩を進める。  すすり泣く声は断続的に続いている。  もしも無事に帰れたら、展望台にはトイレを置いてもらうように嘆願しよう。理由は聞かないでもらいたい。  藪が手の届く先まで迫った。  泣き声は止まない。  意を決して、震える手で茂みをかき分けた。
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