横断歩道のロボット

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 この問いに、きっと私は答えを出さなくてはならない。  ロボットはあの日を境に姿を消した。  聞いた話によれば、明け方、道路の脇で踏まれた空き缶みたいに転がっているのを、近隣の住人が発見して、自治体に連絡、回収されていったそうだ。  修理して再配置するという話や、後継機を置くという話もあったそうだ。それを望む声は実際、多く上がっていた。  しかし、結局、あの横断歩道にロボットが戻ってくることはなかった。  通りは相変わらず車の往来が多く、横断歩道の青信号も短いままだ。近隣の保護者たちは以前のように当番を組んで、平日の朝夕、黄色い手旗を振っている。  私は今日も近隣のスーパーで買い物をして、あのT字路に差し掛かった。  目の前には腰の曲がった老婦人がひとり、先に信号を待っている。  あの日、ロボットに感じた苛立ちは何だったのか。その背中の向こうに、私は一体、何を見たのか。  すぐ隣をすりぬける影を見た。  その後を追って、私は一歩を踏み出す。  信号機の柱から黄色い手旗を抜き取って、老婦人の隣りに立った。 「こんにちは。良いお天気ですね」  家の近くに横断歩道がある。  ここにロボットが立っていた。
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