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タイムリープマシンが完成した。
週明けの朝、出社と同時にデスクで報せを受けたT氏は、午後からの一切の予定をキャンセルした。代わりに外出と直帰の手続きを取ると、早々にオフィスを後にした。
駅までの道のりと、乗り換えの僅かな時間を惜しんで、途中でタクシーを拾った。
待ちに待った日がついにやってきたのだ。
逸る気持ちを抑えつつ、運転手にR大学までの道を急がせた。
T氏はS社の研究開発部門の部長を勤めている。
次期主力製品の開発にあたり、いくつかの大学研究室と協賛を結んでいたが、R大学にあるI教授の研究室にT氏は最も入れこんでいた。
大学のキャンパス前でタクシーの支払いを済ませると、T氏は真っ直ぐに構内を横切って、古めかしい研究棟の3階にある研究室の戸の前で一度立ち止まる。大きく深呼吸をして、戸を開いた。
「やあ、お待ちしていましたよ」
部屋の奥にいたI教授が顔を上げて言った。
野暮ったい丸眼鏡の向こうで純朴な瞳が細められた。研究一筋に生きてきた人間特有の無邪気な笑顔だ。
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