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 純粋な知的好奇心の探究を旨とするI教授と、商業を前提とした大企業の部長であるT氏、立場の違いから時には話が噛み合わず、飄々としたI氏の態度にT氏はヤキモキさせられることも多かった。しかし、今日という日に限って言えば、彼は誰よりも頼もしく感じられた。 「ちょうど準備を終えたところです。いつでも始められますよ」  部屋の奥には人の背丈よりも大きなコンピュータがいくつも立ち並び、その間に挟まれるように、黒のリクライニングシートが置かれていた。ヘッドレストの上には半分に切ったイガグリのようなヘルメットが据え付けられており、トゲにあたる筒やらケーブルやらは、床の上を這って部屋中のコンピュータと繋がっている。幾度となく足を運んでいるT氏には、それこそがまさにタイムリープマシンであることを知っていた。 「それで、お願いしていたものは見つかったのでしょうか」  T氏が固唾を飲んで尋ねると、I教授はにっこりと笑顔を返した。二人は連れ立ってマシンのそばにあるモニターまで歩いていく。 「条件に合致するものがいくつかありましたので、あとは実際に見て選んでもらえればと」  モニターに映るそれらを見て、T氏は頬がだらしなく緩むのをこらえきれなかった。年甲斐もなく喜びに身体が打ち震える。 「それと、実験の前にいくつか説明しておきたいことがあります。見ながらでいいので聞いて下さい」     
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