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現状が悪化していること、仕事もずっと休んでいることを伝えると、やっと医者は診断書を書いてくれた。薬も少し強いものに変わって、数も1つから3つになった。寝る前のものと、起きたときのものと、頓服として睡眠薬が処方された。布団からほとんど出ていないというだけで、ほぼ丸一日寝付けない日もあるというのを話したからだろうか。寝ても1時間置きに起きてしまうからだろうか。
24時間という当たり前の地球のサイクルが、彼の中から消滅していた。
「どうしても眠れない時にだけ、飲むようにしてください」
医者は念を押すようにそう言った。睡眠薬というのは、一度頼ってしまうとそれなしでは眠れないと思い込んでしまう人もいるのだと言われて、一瞬怖くなった。こんな薬を処方されるようになるなんて。
その日も、いつものように答えの出ない考えを、ひたすらにぐるぐるぐるぐると考えていたときだった。
「あ…そういや、じいちゃんが昔言ってたな」
ふと、祖父の言葉を思い出していた。
“昨日なに食べたか思い出せるうちは大丈夫だ。思い出せんようになったら、じいちゃんのところに来い”
そんなことを笑いながら祖父は言っていた。
年寄りの言うことだからボケたらってことだと思っていたが、よくよく考えれば孫がボケる頃に祖父が生きているわけがない。
あぁ、このことを言ってたんだ。俺はふいに納得する。昨日なにを食べたかどころか、なにをしていたのかさえも思い出せなくなっていることに気付いて、茫然とした。
このまま寝ているだけでは、なにも変わらないんじゃないか。そんなことが急に浮かんで、そうして墓参りにでも行こうと思い付いたのだった。
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