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やらなければいけないことは山積みで、でも身体が動かなくて。せっかく必死に積み上げたものも台無しになった。高校を卒業して入った会社で、早く認められたくてがむしゃらにずっとやってきたのに。そんな焦燥感に駆られる。やればできたんじゃないのか、それは仕事に行けなくなった日から続いていた後悔だった。
そこで、ふと祖父の畑の手伝いをしていたときの記憶が蘇った。
「じいちゃん、なんで休むんだよ。まだ途中じゃん」
「耕太、休憩も必要なんだよ。そうやって何でもかんでもやればいいってもんじゃない。夜疲れて、今日せっかく採れた野菜も食べれんまんま寝ることになったら勿体ないだろう」
優しく言ってくれている祖父に、ふくれっ面で返したのを覚えている。
「じいちゃんが体力ないだけじゃん。俺は動けるもん」
「なんでも一人でぜんぶ自分のペースでやろうとしていたら、お前さんは一人ぼっちになっちまうぞ。周りと歩幅を合わせるのも、ときには大事なことだ」
休憩も必要、とたしかに祖父は言っていた。休憩なんて、どこで取れたのだろう。やるべき仕事はどんどんやってきて、後輩の仕事もみて。いや、本当は取れたのかもしれない。ふとそう思う自分がいた。
ぼんやりとした記憶の中。部下も後輩も、みな疲れ果てた顔をしていた光景が浮かぶ。あれを終わらせれば、次はこれができる。そんなことを頭で勝手に組み立てて、周りにもそれを強いていたような気がする。人間関係がどこかで歪んでいたことにも気付かぬふりをしたのは、そんな些末なことに気を揉んでいたら仕事が滞ると思ったからだった。もっと、大切なことを祖父に教えてもらっていたというのに。
気付いた途端、自分をあざ笑うような声が漏れた。
「はは、ちがうわ、じいちゃん。俺が忘れてただけだ。休むのも、周りを見ることも大事だって、じいちゃん言ってくれてたのにな」
いつしか視野が狭くなっていた。認められたくて、褒められたくて。
祖父といたあの頃、祖父に褒められたくて必死になった。頭を撫でられると誇らしくて。あの頃のまんまだ。少しも成長していない。祖父が亡くなって、自分は大人になったのに、少しも大人なんかじゃない。そう思ったら、情けなくて笑えてしまった。
「じいちゃんの半分もまだ、生きてないんだな…」
ふと、そんなことを思う。
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