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社会人になってから学ぶものの方が、学生時代に比べて多いように思う。そう考えると、まだまだ祖父のいたところには辿りつける気がしなかった。
祖父の生きた時代は、きっと今とはまた違うものだっただろう。
今、自分が侵されている心の病は、現代病と言われるくらい増えているのだとネットに出ていた。鬱病、統合失調症、睡眠障害。症状もどんどん多様になっていて、理解されない体調不良に悩む人も増えているのだという。自分が底辺だと思うところにいる気がしていたけれど、それ以上の苦しみに耐える人たちが世の中にはごまんといるのだと文字の上で理解した。
祖父が言ったのが、どこまでを知っていての言葉なのかは分からない。それでも、昨日なにを食べたかを思い出せる日が続くことが、ただそれだけで愛おしいのかもしれない、と思った。
寝たきりの生活の中、頭が回らないのにそれでも携帯の画面を見つめ続けたのは、この病気との向き合い方を知るためだった。
体験談が羅列された掲示板。病気の紹介のようなページ。治療法なんかも様々に載っていた。どこを探しても、風邪や擦り傷みたいに簡単に治るようなものではないと記されていた。人によっては何年も何十年も、闘わなければいけない病気なのだと。その覚悟もしなければならないのだろう。けれど、臆病になって後ろ向きに考えてもきっと仕方ないのだ。そう思い至る。
気候や、季節。環境によって症状が出る人もいれば、仕事を辞める決断をして休んで徐々に快復した人もいるようだった。治まってもまた、ことあるごとにぶり返してはを繰り返す日々だという体験談も見た。
傾向と対策。まるで学生時代に散々見た課題帳の文字みたいなことが、それでもきっと大切なんだろう。柔軟な心を養う時間が今は必要な時期なんだ、と当面のことをぼんやりと考えていた。
思い立って祖父の墓参りに来るまでに10日以上も掛かった。家から出ることすらひどく億劫な自分と、これから向き合っていく。人と会うのも、連絡を取るのも今はまだできそうにない。その代わり、たまにこうして祖父と話しにくればいい。
ずっと来ていなかったことを申し訳なく思いながら、それでも、これからも見守っていてほしいとお願いをした。まずは休もう。それがきっと、なによりも大切なこと。
「じいちゃん、また来るわ」
祖父母の墓に背を向けて、眩しい日差しに向かって俺は足を踏み出した。
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