「いつまでも避けてちゃダメだって」

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「いつまでも避けてちゃダメだって」

「それでは、ごゆっくりどうぞ」  コーヒーとケーキの皿をテーブルに並べて、注文伝票を伏せて置くと、直之は一礼してから、踵を返した。  トレイを片手にカウンターまで戻ると、中からマスターが手招きをしていた。  そのにやけた顔を見るまでもなく、ろくでもない用事に違いない。しかし、まさか無視するわけにもいかず、やむなく直之は中にはいって隣りに並び立った。  マスターは顔を寄せてくるなり、右手の小指をピンと突き立てる。 「コレか」  少し離れたテーブル席で、例の子が危うくカップを取り落としかけていた。 「急になんですか」 「最近ゴキゲンじゃないか。良いことがあったんだろう」  歳と外見に似合わない無邪気さで、うりうりしてくる。直之が露骨に「うわーうぜー」という顔をするが怯む気配はない。  視線こそ向けてはこないが、例の子も聞き耳を立てているのは、手にしたシャーペンが動いていないことからも、明らかだった。返されたばかりの試験を解き直していたはずだが、集中できていないこと、この上ない。 「そうだったら良かったんですけどね」     
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