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隣を見ると、先輩の姿がない。
振り返ると、道の半ばに立ち尽くして、ぼんやりと明後日の方を眺めている。
視線の先をたどると、道の反対側のブティックを見ているらしかった。
店先で若い男女が肩をくっつけながら、女性用の服を選んでいた。
女性が手にとった服を当てながら姿見の前に立つと、男性が横から別の服を差し出した。
「えー」などと声を上げつつ、肩で合わせて、最後は男性が選んだ服を手に店の奥へと入っていった。
「バカな女」
ぽそりと、声がした。
隣を見ると、先輩が能面のような顔をしていた。
ブティックから件のカップルが寄り添って出てきた。
彼氏の腕を抱いて歩く女性の顔には、不満の色はひとつとして見えない。
「バカじゃないですよ」
直之が言った。
「好きな人に喜んでもらいたいと思うのは、バカなことじゃないです」
先輩はしばらく件のカップルを目で追っていたが、小さく「そうかもね」と呟いた。
「せっかくだし、どこか寄って帰りましょうか」
直之の提案に、先輩が首を傾げる。
「タイムセールは」
「閉店前の見切り品に期待します」
と、直之が肩をすくめる。
ほんのすこしの逡巡のあとで、先輩は精一杯の笑顔を浮かべて、
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