12人が本棚に入れています
本棚に追加
/60ページ
「いつまでも避けてちゃダメだって」
「それでは、ごゆっくりどうぞ」
コーヒーとケーキの皿をテーブルに並べて、注文伝票を伏せて置くと、直之は一礼してから、踵を返した。
トレイを片手にカウンターまで戻ると、中からマスターが手招きをしていた。
そのにやけた顔を見るまでもなく、ろくでもない用事に違いない。しかし、まさか無視するわけにもいかず、やむなく直之は中にはいって隣りに並び立った。
マスターは顔を寄せてくるなり、右手の小指をピンと突き立てる。
「コレか」
少し離れたテーブル席で、例の子が危うくカップを取り落としかけていた。
「急になんですか」
「最近ゴキゲンじゃないか。良いことがあったんだろう」
歳と外見に似合わない無邪気さで、うりうりしてくる。直之が露骨に「うわーうぜー」という顔をするが怯む気配はない。
視線こそ向けてはこないが、例の子も聞き耳を立てているのは、手にしたシャーペンが動いていないことからも、明らかだった。返されたばかりの試験を解き直していたはずだが、集中できていないこと、この上ない。
「そうだったら良かったんですけどね」
最初のコメントを投稿しよう!